2010年11月17日水曜日

ソーシャルリーディングについて

まったく新しいサービスが登場したり新しいソリューションを生み出せる可能性

「ルポ 電子書籍大国アメリカ(大原ケイ著)(アスキー新書)」を読んだが、アメリカにおける電子書籍文化について興味深いことばかりだった。そもそもの出版文化の違いや、エージェントの存在、価格と制度の問題、読書習慣の違い…
そういった事実の羅列も興味深いのだが、その中で著者の指摘として昨今のiPadの過熱ぶりが、日本人特有の「熱しやすく冷めやすい」ものに終わってしまわないかの危惧があった。
新しいデバイスにすぐに飛びついたはいいが、飽きやすいのが日本人であり、そのせいで半年後数年後には「そんなものもあったねえ」というように、押入れの奥に仕舞われはしないかということである。それ自体はよくある話だが、そもそもそれで新しい読書習慣のきっかけが失われるのが非常に痛いという話なのである。

よくビジネスモデルの話やコンテンツの話になりがちの電子書籍ブームだが、ケータイコミック市場を思えば、それまでと全く違う文化や市場が生まれる可能性がある。だから、単に課金や権利処理について議論するのは仕組みの議論であってサービスの追求ではない。放っておいても書店に来て本を買う人に課金するのでは何も変わらない。これまで読書はそもそも習慣づいてなかった人が、たまたまiPadで読むことになったという接触を重要視しないといけない。
ということに、気づくかどうかで可能性が変わってくる。

賛否両論あるだろうが、せっかくのデバイスなのだからネットワークで繋がるコミュニティ性や、インタラクティブな仕掛け、リアルタイムな情報出力など、色々と勝負できるところがありそうなものである。

Qlippyというサービスがある。読書におけるコミュニティで、クリップしたりシェアしたりするものだ。iPad版でリリース。Web版もあり、当初から英語圏を意識していてユーザの半数が国外からだという。
はたまた、角川グループとニコニコ動画の提携といった話題もある。こちらもニコニコ動画における「テレビをみんなでわいわい見る」コミュニティ性を読書にもちこんだものである。
つくづく「ソーシャルリーディング」になりそうな2010年~2011年ではないだろうか。

もちろん先に賛否両論と書いたとおり、まっさらな本で購入したい読み始めたいという人もいる。しかしリアルタイム性や位置情報なども組み合わせていくと、まったく新しいサービスが登場したり新しいソリューションを生み出せる可能性があるということに気づくだろう。


続きは、
http://www.jagat.jp/content/view/2484/63/

2010年11月14日日曜日

大沢在昌氏の新作は電子書籍、ケータイ漫画、テレビドラマ同時展開 - ITmedia

「新宿鮫」などハードボイルド小説で知られる作家の大沢在昌さんが、新作小説「カルテット」(角川書店)を12月、電子書籍で先行販売する。来年1月にはテレビドラマ化するほか、携帯電話サイトでコミック版も展開。「多くの人に受け入れてもらい、参加できる仕組みにしたい」と大沢さんは話す。

 カルテットは、10代の少年少女3人を中心にした全4巻の小説。紙の書籍に先行し、角川グループが12月にスタートする電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER」で12月下旬に1、2巻を発売する。ケータイサイト「E★エブリスタ」でケータイ漫画も展開、漫画コンテストも同サイトで行う。テレビドラマは福田沙紀さんと松下優也さん主演。毎日テレビ系列で放送する。

 作品は、テレビドラマ化を前提に5年かけて執筆。大沢さんは「電子書籍はまだ、海のものとも山のものとも分からない」ため、デジタル関連の企画は角川グループなどに任せているが、作家として「電子書籍に前向きに取り組みたい」という。

「夢のような変化は、簡単には起きない」が……

 「電子書籍は今年ぐらいから一気にかまびすしい感じになっているが、夢のような変化は、簡単には起きない」と、大沢さんは電子書籍を冷静に見る。

 iPadやKindleなど電子書籍の閲覧に向いた端末はまだ普及が進んでおらず、「日本人全員、1億人以上が“デバイス”(紙に書かれた日本語を読む能力)を持っている紙の本と比べると、とてつもない産業にはならない」ためだ。

 「かといって、電子書籍を忌避(きひ)してはいけない」とも。同じ作品でも、紙の本より電子書籍で出したほうがメディアの注目が集まり、「話題としての起爆力がある」ため。紙の本は手に取らなかった人が、電子書籍やケータイ漫画を通じて作品を知ってくれる可能性もある。

 「電子書籍も紙の本も利益を食い合うわけではない。1人でも多くの人が楽しみ、盛り上がるためには、相互で力をぶけあう形で展開しないと。紙、電子、ドラマ、コミックなど、とにかくふくらませていって、みんなが興味を持ち、参加できるようにしていきたい」と大沢さんは意気込んでいる。

iPadについて知っておきたい、いくつかのこと

全文は下記サイトで・・・
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/mobile/20100413_360754.html

●電子書籍リーダーとしての実力
 “電子ブック”や“電子書籍”というとき、多くの人は漠然とあらゆる本の形式を想像しているように思う。しかし、以前にもこの連載で書いたことがあるが、新聞・雑誌・書籍はそれぞれ性格が異なる媒体だ。紙に印刷したメディアであることは同じだが、それ以外の共通点は意外に多くない。

 さらにフォーマットについても誤解があるように思う。iPad向けに無償提供されるアップルのiBookはePubという形式を用いて、iBook Storeから書籍を購入、管理する機能を持つ。この夏に利用が可能になるiPhone版のiBookと組み合わせると、自宅のiPadで読んでいる本の続きをiPhoneで読んだりといったことが簡単に行なえるようになる。

 しかしiPadがePubに対応した電子ブックリーダーと言うのは間違いで、実際にはさまざまな形式の電子的な本を読むアプリケーションが提供されている。なぜなら(将来はわからないが)現在のePubは特に文学系の書籍や一般的なビジネス書を表現するには十分な使い勝手だが、技術書など少々複雑なレイアウトの本を表現するのが難しいという事情がある。これはオーサリングツールの工夫で解決するだろうが、アニメーションの表現や新聞の紙面のように、その日一日のニュースの傾向を俯瞰するような見方をしたいメディアで利用するのは不向きなのだ。

 このためNew York TimesやWall Street Journal、USA Todayなどの新聞社は、独自のアプリケーションを開発して見せ方を工夫している。特にNew York Timesのアプリケーションは秀逸だ。紙面から飛び出してくる動きのある広告などが評判だが、地味ながらもっとも注目されるのが、新聞社で言う“整理部”の仕事がちゃんと反映できるよう作られていることだ。


New York Timesを読んでいるところ こちらはWall Street Journal US Todayのトップ
 つまりニュース全体を俯瞰し、世の中全体の流れを紙面構成の中から読者に伝えるような工夫がされている。個々の記事を読む際には、記事をタップして全文を表示する必要があるが、なかなかユニークな工夫だ。文字の複雑な日本の紙面には、もう一工夫が必要かもしれないが、これは単純なWebニュースでは得られない体験と言えるだろう。

 一方、アメコミ最大手のMarvel Comicsはコミックを見るためのビューアーを開発して配布。専用アプリの中からコミックを購入することもできる。全体を俯瞰しつつ、コマを順に追っていく読み方もできる。同一ページ内のコマを送る際には、ページ内を目線が動くようにアニメーションするなど、実際にコミックを読んでいる雰囲気をきちんと出していた。

 このほかZinioのZinio Readerは、雑誌を見るためのプラットフォーム。雑誌をペラペラとめくりながら、気になったページを読もうとすると、写真や記事を掘り下げて読むことができる。まだ実際に雑誌をパラパラとめくりながら見る体験と同じというところまでは行っていないが、なかなか面白いトライだ。

 このように媒体のタイプ、さらには同じ雑誌でも情報誌なのか解説中心の雑誌なのかによっても、最適な見せ方は変わって来るはずだ。それぞれは異なるフォーマットでも、各プラットフォームに読むためのプログラムが用意されていればいい。たとえばKindleだってiPad用アプリケーションがある。

 iPadに話を戻してみると、iPadのディスプレイが広視野角なIPSタイプで画素密度も十分に高い点やタッチパネルの軽快な操作性なども良いところだが、上記のような“見せ方”を工夫した閲覧のためのアプリケーションを、比較的構築しやすいように開発環境が整っていることこそが、iPadのこの分野での優位性のようにも思える。



さまざまな電子書籍やコミックを読むためのアプリケーションが用意されている
●“本を読む”ための道具としては辛い面も
 これも以前から主張していることだが、上記のように“見せ方の工夫”がしやすいiPadは雑誌的、新聞的な読み方をサポートしてくれるが、その一方で純粋に書籍を読むための道具としては、少々使いづらいとも感じる。

 筆者は電子書籍リーダーとして、ふだんSony Reader Daily Editionを使っている。特に新書に関しては、そのままスキャンして余分な余白を裁ち落としたPDFを表示させると、ちょうどいい具合のサイズで読めるからだ。それ以外の電子的なデータが存在するものに関しては、ちょうどいいレイアウトになるPDFを“自炊”している。

 と、それは少々マニアックな話だが、同じようにiPadで本を読みたいかというと、そうは思わない。やはり実際に読んでみても、バックライトを使った液晶パネルでは、長時間、文字を読み続けるのが辛いと感じるからである。

 こればかりは、電子ペーパーと液晶パネルという、ハードウェアの基本的な性格の違いだから、致し方ないところ。加えてコンピュータデバイスとしては軽量な部類のiPadも、本のように読もうと思うとさすがに重い。下端を指で挟んで読んでいると、すぐに指が疲れてしまう。

 さらにバッテリの問題もある。電子ペーパーを使ったリーダーは、どれも1週間ぐらいは鞄の中に入れっぱなしで充電せずに使うことができるが、iPadはそうはいかない。使い方のスタイル次第だろうが、やはり書籍を持ち歩くイメージじゃないなぁというのが、個人的な“感想”である。さて、皆さんはどう感じるだろうか?

 もっとも、iPadが電子書籍のビジネスが本格化するきっかけにはなるかもしれない。出版社は保守的だと外からは見えるだろうが、変わらなければならない意識はどの出版社も持っている。なにかトリガーとなるものがあれば、一気に状況は変化するものだ。

 最終的にはiPadでも、Kindleでも、Sony Readerでも、一度購入した書籍が携帯電話なども含め、そのとき、その場に適したデバイスで読める環境ができれば、デバイスが何かなどは“どっちでもいい”ことだ。

 そしてそのために必要な仕組み作りは、背後で少しずつ進んでいる。それに関してはまた別の機会に記事にしたい。

電子書籍元年に迎える年末

関連サイト:http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/mobile/20101111_405974.html

今年(2010年)のこの連載は電子書籍端末に関する話題で始まったが、年末にかけて電子書籍がさらに大きな話題を呼ぶことになる。電子書籍を読むためのハードウェアが複数登場すると見込まれている上、大手出版社を含めて電子書籍販売の枠組みを決めてきているからだ。

 たとえばハードウェアの面では、シャープがガラパゴスで電子書籍端末市場に参入したことに加え、海外ではアマゾンのKindleと並んで多くのユーザーを獲得しているソニーも、国内でのビジネスを開始することを明言している。Kindleに関しても、他社の動向を踏まえた上で日本市場に参入する準備は進んできている。

 いくつかの動きが同時並行的に進んでいるが、噂先行でインターネットに情報が流れていると感じている。取材を行なっていると、すぐに報道できる事、将来にならなければ書けない事などが入り交じるものだが、単なる噂が事実として捉えられているケースも見かけられる。そこで、筆者が取材した範囲内の情報をテーマごとに分類し、年末に向けた電子書籍関係の動向をまとめてた上で個人的な意見も書き添えておきたい。

 今回は、主にフォーマットについての話題をまとめてみた。

●電子メディアにフォーマット戦争はない
 書き進める前にいくつか全体を俯瞰するための基礎的な話をしておきたい。

 まず一気に書籍流通が電子化される可能性があると考えている方もいるようだが、国土が広く物流の問題が大きい米国でさえ、2012年に10%程度という予測が2010年前半は多かった。日本の場合はまだ本格的にビジネスも始まっていない。今の段階で、日本での電子化比率を予測することにあまり意味はないが、多くても1割程度と考えるのが妥当だろう。

 出版事業の基礎はあくまで紙の本にあるということだ。電子出版の市場は当面の間小さすぎるため、製作コストや宣伝コストを考えると電子版のみで大きな成果を出すことは難しいと考えられる(もちろん中には既存の大作家が書き下ろしなんてものも出てくるかもしれないが、あったとしてもそれはごく一部の話だ)。

 将来のために電子フォーマットに投資できる出版社もないわけではないが、多くの出版社(ほぼ全社と言っていいかもしれない)はソフトウェアや電子技術の標準規格策定のノウハウを持ってはいないし、そこに投資するだけの大きな市場も、すぐ目の前に現れているわけではない、ということだ。

 電子書籍に関連して、既得権益を守るためにコンテンツを持つ出版社と、コンテンツを囲い込みたいハードウェアメーカーが結びつき、クローズドな世界で独自技術で固めたエコシステムを作ろうとしている、といったストーリーの批判記事を見かけることがあるが、そんな余裕はないはずだ。そもそも、純粋な電子流通のメディアの場合、エンドユーザーに影響する出力フォーマット戦争へと発展することは考えにくい。

 過去、電機業界においてフォーマット戦争と言われる事態が何度か起こってしまった。VHSとβのビデオレコーダ戦争の時は、規格を統一しようにも物理的なテープのサイズが異なっていたので乗り入れはできなかった。その後、DVDの前身であるSD規格とMMCDは、どちらも12cm、1.2mm厚のポリカーボネートディスクで外形は同じだったが、物理的な記録構造が異なった。これはBlu-ray DiscとHD DVDの間でも同じである。

 これらが技術論争に留まらずフォーマット戦争に発展し、(DVDは消費者に影響を与えることはなかったが)結果として消費者に少なからぬ影響を与えることになったのは、メディアフォーマットに物理的な制約があるためだ。しかし、電子流通しか想定してないフォーマットには、当然ながら物理的制約はない。

 電子書籍のフォーマットは映像や音声の圧縮手順やコンテンツオーサリングのためのスクリプト言語、あるいはJavaなどに比べると遙かにシンプルで、世界で流通している電子書籍フォーマットの多くは、組版ルールを示す印(タグ)を埋め込んだテキストファイルだ。技術書用などではレイアウトが崩れないようタグの付け方を工夫している場合もあるが、それらは書式策定上のノウハウであって、特定フォーマットに対応したリーダを作る事は難しくない。

 つまり、複数のフォーマットが流通しているのであれば、電子書籍端末は主要なフォーマットすべてに対応すればいい。無論、数十種類ものフォーマットが混在すれば問題だが、実際にはそんなことにはなっていない。実際、アマゾンのKindleが扱っているAZWという形式も、実はその中身は用途ごとにさまざまな形式で記述されている。

 これがソフトウェアでは低消費電力かつ高速に処理できないような複雑なフォーマットならば、対応するLSIを開発しなければならないため、フォーマットが増えるとどうしようもないということになるだろうが、電子書籍はページを表示する時にしかデータを処理する必要がない。組版ルールとしてどんな機能、選択肢が必要か? といった部分で議論はあるかもしれないが、フォーマット戦争は起きようがない。

●出版社にとってフォーマットライセンス料やオープン性より重要な事
 やっと日本語組版ルールがスタイルシート記述や追加タグとして盛り込まれるようになり、日本語ePubが実現しそうだというニュースが数カ月前にあった。大変に喜ばしいことだが、だからといってこの年末にすぐに対応端末が出てくるわけではない。タグ付けルールが決まれば開発はスムーズに進むだろうが、書籍データ(業界標準のDTPシステムはアドビのInDesignなので、少なくともInDesignのデータから、日本語組版情報も含めてePubにエクスポートされ、各種端末で崩れずに表示されるというワークフローが確立されなければならない。


ソニー製5インチサイズの英語ePub端末に、日本語フォントを埋め込んだePubファイル(筆者が手元にあるテキストをテストで出力したもの)を表示させたところ
 実際、欧文書式であればePubの書き出し機能はそこそこ使える印象だ。フォントを埋め込むこともできるので、横書き、ルビ・傍点など日本語組版機能なしであれば、日本語ePubを英語ePub端末に表示させることだってできる。ただ、新しい組版ルールが組み込まれ、どのように書き出され、表示されるかといったノウハウがたまるまでには時間がかかる。書き出しプラグインの改良も必要だろうし、ほぼワンタッチで(すなわち最小限の校正コストで)書き出せるようになるには時間がかかる。

 それでも仕様そのもののオープン性は重要という声はあるだろうが、日本語でのePubが使い物になるレベルになったなら、その時点でビューアが対応すればいい。それまでの間は、すでに実績のある書式を流用した方が、既刊書籍を速やかに電子化するには有利だ。

 たとえばシャープが提供し始めたXMDF形式は、DTPデータからワンタッチで書き出す事ができる。すでに携帯電話向けに豊富な経験があり、携帯電話、PDA、PC、すなわち画面サイズや解像度の異なる複数の端末で、問題なく書籍として流通できるデータを作る事が可能だ。

 小学館が年内に200冊の電子書籍を用意すると話しているが、これらはXMDF書き出しのノウハウを持つ子会社を通してXMDFデータとしてリリースされる。拙著の単行本も、この中の一冊になると聞いており、シャープ製以外の電子書籍端末でも読むことが可能になると聞いている。既刊の書籍はすでに校了したデータが存在し、それを別形式で書き出すと再校正しなければならないが、経験を積んだフォーマットならば校正作業は最小限で済む。

 一方、講談社はボイジャーが開発した.book形式でのリリースが多い。再校正のコストや時間をかけられない(冒頭でも述べたように、電子書籍市場はまだまだ小さい)ため、経験値が高く既存データもある形式でのリリースと伺った。講談社は電子版2万冊を用意との報道が出ているが、桁違いにラインナップ数が多いのは、再校正が必要となる要素を徹底して避けているためである。

 .bookは角川グループも採用する予定で、やはり先行して取り組んできた実績やノウハウが生きている事がわかる。角川は最終的に中間フォーマットでリリースし、端末に合わせて個々の形式でダウンロードさせることを考えているようだが、スタート地点は既存フォーマットとなった。

 実際に電子書籍市場を立ち上げて行くには、既刊書籍をできる限り低リスクで電子化できる環境を作らなければならない。無論、使い物にならないフォーマットにコストをかけるのは愚かなことだが、XMDFも.bookも、それぞれにパートナーの出版社、あるいはエンドユーザーに揉まれて進化・熟成されてきたノウハウの固まりだ。既存のデータもある。

 ライセンス料やフォーマットのオープン性にばかり目が行きがちだが、そもそも普及が困難なほど高いライセンス料を科した規格は消え去るだけだ。やり玉に挙がりがちなXMDFも同じで普及の段階に合わせて適切な料率になるならば問題はないだろう。

 少なくとも現状、日本語ePubより良い電子出版環境を提供できるものになっているのは間違いないのだから。繰り返しになるが、日本語ePubの方が良いという状況になったなら、ビューアは必ず対応する。そちらの方が良ければ、新刊のフォーマットは(自然に)日本語ePubへと移行していくはずだ。
●エンドユーザーにとってフォーマットライセンス料やオープン性より重要な事
 なお、ご存じの方も多いと思うが、電子書籍のフォーマットは将来的に、さまざまな組版指定やレイアウト情報などを記述できる中間フォーマットが標準規格として策定され、そこから各機器がサポートする電子書籍フォーマット(ePub、XMDF、.book、あるいは特定の技術書のレイアウトが得意なフォーマットなど)へと変換するワークフローだ。

 各種フォーマットのスーパーセットとして中間フォーマットが確定するまでには若干の時間がかかるだろうし、中間フォーマットへの出力ノウハウ(さらにその先のリリースフォーマット変換時のノウハウも)がたまり、ワークフローとして確立するまでには時間がかかるだろうが、電子書籍フォーマットに関する議論は、いずれにしても遠くないうちに収束する。もともと、エンドユーザーにとって重要な事は、フォーマットの種類ではない。手元にある装置に対して、どのような運用形態でコンテンツが提供されるかの方が、ずっと重要な事だ。

 たとえば、ある電子書籍ポータルで購入した電子書籍は、どの端末で読む事ができるのか。読み終わった本を友人に推薦したいといった時、期間限定で別のアカウントIDに対して“貸す”ことができるのか。紙の本の購入者が割引料金(あるいは無料)で電子版を購入する仕組みはあるのか。電子書籍端末を別メーカーのものに購入し直した際に、それまでに購入した電子書籍は移行できるのか、できないのか。移行できるなら、その枠組みはどうなるのか。

 たとえば私は先日、上梓した本で、本の一部にユニークコードを印刷しておき、ユニークコードをユーザーに入れてもらうと、コンテンツ全文のPDFがダウンロードできるというサービスを提供した。この時点ではPDFしか日本語で確実に本のデータを提供する方法がなかったため、DRMなしでPDF全文提供のサービス実現を出版社にお願いしたのだが、今後はそれを電子書籍フォーマットでできればいいのでは、と思っている。著者の裁量でそれが実現できるなら、と思っている執筆者もいることだろう。

 エンドユーザーにとってみれば、本への投資が守られることが、これは書籍レイアウトや内容を記述するフォーマットにも増して気になるところではないだろうか。

 筆者に集まってきている情報を総合すると、各種端末はマルチフォーマットに対応し、少なくともPC上のツールでは複数の電子書籍販売ポータルに対応する方向で調整しているようだが、読者個人に対するライセンス(電子書籍を読む権利)を異なるサービス間で継承するための枠組みについては、まだ調整が必要のようだ。

 とはいえ、実際にビジネスが始まりさえすれば、読者にとって悪い方向に行く事はないと思う。複数のシステムが存在することで、競争が発生する見込みが高いからだ。販売価格での競争はあまり見込めないが、運用形態の柔軟性に関しては競争が起きるだろう。

 いずれにせよ12月までには、次に向けてのアクションがいくつかある。

 なお、フォーマットのライセンス料やオープン性が電子書籍の価格に影響するのでは? との論も見かけた。しかし、実際に販売される電子書籍の価格が変わるわけではない(もちろん、自主出版は別)。年内には大手、来年春ぐらいまでには中堅を含めた出版社が電子書籍市場にコンテンツを提供していくが、リリース用フォーマットによって価格が違わない事はすぐに明らかになるだろう。

 電子書籍のコスト構造のうち、もっとも大きな割合を占めているのは配信・課金システムのコストで、おおよそ4割が見込まれている(ずいぶん配信コストが高いと筆者も思うが、この数字はリアルなものだ)。電子書籍の価格は紙の場合の7~8割というが、多くは7割程度になると見られる。

 ちなみに著者印税は講談社の場合で販売価格の15%、小学館は出版社売上げの25%との事だ。配信は外注されているため、小学館の場合も25×0.6=15(%)と両者は同じ印税率だ。また、前述したように紙の本の7割の価格が付けられる予定であり、この15%にかけ算すると、紙の本で言うところの10.5%が著者印税になる計算。

 すなわち著者の手元に入る金額は1冊当たり、紙でも電子でもほとんど変わらない事になる(ただし電子配信は売上げ実績に対してしか支払われないため、初版分に対してアドバンスで印税が支払われる紙の本とは厳密には異なる)。

電子出版の総合情報誌『eBookジャーナル』11月22日に創刊-特集内容等を公開

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/10/28/072/index.html

電子書籍情報サイト『ダ・ヴィンチ電子部』オープン - 毎日レビュー更新

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/11/05/027/index.html

最悪のシナリオでも電子書籍は5年後に30億ドル市場に - Forrester

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/11/10/056/index.html

紙と電子書籍の共存モデルを確立する──角川『BOOK☆WALKER』12月開始へ

http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/11/13/bookwalker/index.html

2010年10月6日水曜日

[PC WATCH]電子書籍2010夏

毎年、お盆シーズンは製品発表や取材もなく、比較的ゆったりと過ごすことができる。筆者も休暇を入れつつ、それまで時間がなくて評価できていなかった3DノートPCを見たが、クロストークが目立ち、映像を楽しむにはまだ時間がかかりそうだ。しかし、画質より臨場感を求めるゲームならば、それなりに楽しめるレベルにはなっていると思う。

 この話は機会があれば連載の中でしたいが、今回は電子書籍に関して、さまざまな数字をまとめてみた。すると、日本で電子書籍ビジネスの常識として知られている話が、実は根拠の薄いものである事がわかってきた。

●北米の書籍市場を知る
 電子書籍に関してさまざまな誤解が、特に日本で広まっている背景には、現在の電子書籍ブームの発端となっている北米の状況が、断片的な情報と誤った解釈で伝わっている側面が少なくないと思う。そこで、まずは北米の書籍市場を知り、その後、電子書籍、日本の状況と話を進めていくことにしたい。

 米国の書籍市場は少し前までバーンズ&ノーブルとボーダーズという、2つの巨大書店チェーンが市場を支配してきた。2008年の数字で恐縮だが、バーンズ&ノーブルは全米726店舗、ボーダーズは515店舗の大型書店を全米に展開。毎年のように出店数を増やしてきた。

 それに伴って売り上げも伸びていたのだが、2006~2008年にかけて転機が訪れた。まず2006年にボーダーズが1億5,100万ドルの赤字に転落し、バーンズ&ノーブルの利益は2006年の1億5,100万ドルをピークに(店舗数、売り上げとも伸びているのに)翌年から下がり始めた。売り上げも2007年がピークで、それ以降は減少を続けている。

 これに対してAmazonの売り上げは伸び続け、2008年にはバーンズ&ノーブルを逆転(比較対象はAmazonの売り上げのうち、米国内の書籍のみで比較)している。何より利益の差は大きく、Amazonは2009年約9億ドルの利益を書店事業で挙げた。

 ゆっくりと寛いだ環境でゆっくりと本を選べる快適な大店舗を数多く展開し、本好きを集め、大量に販売することで成長したバーンズ&ノーブル的手法は、しかしAmazonに通期ベースの売り上げで2008年には抜かれていたわけだ。しかも、4期連続という慢性赤字のボーダーズはもちろん、バーンズ&ノーブルも2009年はプラスマイナス・ゼロあたりで、全米1位の書店チェーンでさえ存亡の危機を迎えている。

 つまり“勝ち組がない”のが、北米の書店業界と言える。その中でAmazonは順調に成長しているのだが、ではAmazonはどんな特殊なビジネスをしているのか? 実は非常にオーソドックスなビジネスをしている。

●Kindle向けは赤字……なんて話はない

Amazonの「Kindle」
 Amazonと言えば、新型登場で活性化が進むだろう「Kindle」が、一番の注目株であることは間違いない。日本では電子ペーパーを採用したブックリーダーの現行機種が存在しないため、ピンと来ないという人も多いとは思う。だが、北米ではあまりiBookの事が話題にならなくなってきたように、iPad、iPhone向けのiBook Store戦略は、今のところまだ火がついていない状況だ。

 そのKindleに関して、まことしやかに囁かれているのが、“Amazonは新刊刊行当初は損をしてでも電子流通させ、電子書籍への移行を強力に進めている”という噂。しかし、いくつかの点でこの話はおかしい。

 そもそも、企業が損をしてでも売るという時というのは、それにより利益がもたらされる事が明らかな場合のみだ。一般的に、損をしてでも売る事はない(長期に渡って開発費を回収するなどの戦略はある)。AmazonがKindle向けに新刊を売ると損をするという話は、米ニューズウィークの記事が発端になっている。

 ただし、その内容を見るとKindleに対して批判的な人物が、彼らは新刊当時、損をしてでも電子版を販売していると発言しているのだが、その根拠は「紙の本と同じ価格で電子版を仕入れているから」だという。米国の場合、書店は本を定価の5割で仕入れる。ところがKindle版はハードカバーの半額以下なので、逆ざやが発生することになる。

 そんなはずはないと思い、電子書籍に関連する各所にさまざまな取材をかけてみたが、わかった事は、Amazonがかつてのバーンズ&ノーブルと同じ手法で書籍販売の利益を最大化しようとしていることだった。

 バーンズ&ノーブルは多数の店舗を持つことで扱い量を増やし、仕入れを安く抑えることに成功した。米国では書籍の価格に自由競争の原理が働くようになっているので、扱い量が増えれば仕入れは安くなるのだ。店舗数を増やすほどに利益率を上げることができ、販売量も増える。

 AmazonはKindle版を販売する事で(その中には持ち歩きはKindle、自宅では紙という人も少なからず存在する)扱い量を最大化でき、それによって仕入れ値を下げることができる。仕入れ値が下がるのは紙の本も同じなので、すると主業務である紙の本の販売でも利益率を高めることが可能だ。

 このように、バーンズ&ノーブル的ビジネスをAmazon的に拡張するための“テコ”こそが、Kindleと言える。繰り返しになるが、世の中、損をしてでも……という商売は、ほとんどない。KindleによってAmazonは、紙の書籍ビジネスの利益も最大化しているという部分が重要なのだ。
●驚くほど下がり続けている日本の書籍市場
 一方、日本の状況はどうか。日本の価格モデルと米国のそれは全然違うので直接は比較できない。日本には必ず定価販売となる再販指定がある。また日本の書籍は委託販売であり、出版社が持つ資産(在庫)なのだ。売れなければ返品できるのは、そもそも書店は軒を貸しているだけだからだ。

 また日本の書籍市場はコンスタントに下がり続けている。2009年の売り上げは8,492億円だったが、これが2014年には6,800億円ぐらいになるという試算もある。書籍市場の縮小はここ数年一定で、悲観的な予想通りになる確率は高いだろう。

 よく「日本の出版社は電子書籍化に抵抗していてけしからん」といった意見をみかけるが、そもそも本を作り、流通させる仕組みが失われては電子書籍もなにもない。そもそも、紙の書籍を販売して成り立っている企業に対して、その主力事業たる書籍販売を(まだ流通量の少ない)電子書籍にしろというのは無理がある。

 また日本の出版社が電子書籍化に反対しているというのも、彼らの気持ちを正確には伝えていない。なぜなら電子書籍化を進めなければ、自分たちのビジネスが今後は立ち行かなくなっていくと十分に認知しているからである。

 日本ではまだ電子書籍ビジネス(あくまで書籍であって、雑誌や写真集、新聞、コミックはその限りではない)がまともにスタートしていないが、2014年までに全市場の10%程度が電子版になると予想すると680億円だ。さらにAmazonの成長予測なども加味すると、2014年の書店書籍売り上げは全体の52%しか残らない。市場縮小と利益率低下のダブルパンチだ。

 書店・店頭での売り上げが2014年に今の半分近くになろうというのに、減った分をインターネット経由の販売だけに頼っていては、みすみす業界の縮小を加速させることになる。巻き返すチャンスがあるとするなら、その切っ掛けがいまのところ電子書籍しかないというのは、誰もが意識していることだ。

 紙の本は再版指定があるのに、電子書籍にはない、といった法整備上の問題もあるので、電子書籍後の新秩序が日本ではどうなるか予測しづらい面もある。しかし、それでも出版社は電子書籍化、電子雑誌化は進めなければならない。雑誌市場でも売り上げ規模の縮小が続いているためである。

 書店は書籍だけでなく雑誌も販売しているが、どの両方が同時に下がるため、市場は5年後までに30%以上も小さくなると言われている。すると、ここで負の連鎖が起きる可能性が出てくる。

 収益性が悪化すれば、回復見込みのない店舗は次々に閉店せざるを得ない。例えば2009年に新規出店された書店は286あったが閉店ははるかに多く951店舗。つまり665店舗が純減数だ。

 すると閉店した店舗の売り場から出版社に、大量の本が返品されてくる(前述したように委託販売の形式を採っているから)。市場が30%小さくなるということは、売り場面積もおよそ30%減ると考えられるので、おおよそ2,000~2,200億円分の本が、各出版社に返品されて戻ってくるのである。すると、とたんに経営が苦しくなる出版社が増え、中には倒産となるケースも出てくる。

 このような事は、当然、出版社も自覚している。そろそろ、電子書籍化に関してはマジメに考えていかなければならない時期になっている。


関連サイト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/mobile/20100820_388236.html

2010年10月3日日曜日

【コラム】アイパッド向け電子書籍アプリ比較

【ウォール・ストリート・ジャーナル】アイパッド向け電子書籍アプリ比較

米アップルの多機能端末「iPad(アイパッド)」の発売からわずか5カ月だが、アイパッドは既に大ヒットしている。販売台数は数百万台に達し、専用のアプリケーション(アプリ)の数は数万にも及んでいる。

 アイパッドの所有者の多くは、電子メールやソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)の利用、ゲーム、ウェブ閲覧に至るまで、パソコンの代わりにアイパッドを使用するようになっている。アイパッドは、筆者の見解では、非常に優れた電子書籍端末でもある。

 米ネット小売り大手アマゾンの「Kindle(キンドル)」など電子書籍専用の端末とは異なり、アイパッド向けには広範な電子書籍アプリが提供されている。筆者は、実際にそのうちのいくつかを使用して電子書籍をむさぼり読んでいる。特に、ここ数週間は、それらアプリの中でも最も人気のあるものを試用し、それぞれの長所と短所を比較してみた。

 その結果は、どれも甲乙つけがたいといった感じだ。いずれもキンドルなどの既存の電子書籍専用端末と似たような機能を備えており、専用端末とデータのやり取りが可能なものもある。それぞれに長所と短所があり、個人的には用途によって使い分けている。

続きは下記URLで・・・

http://jp.wsj.com/IT/node_104853

iPad登場で「MAGASTORE」に異変――電通が考える電子書籍のジレンマ (1/2)

iPad登場で「MAGASTORE」に異変――電通が考える電子書籍のジレンマ (1/2)

iPadの登場で、電子雑誌配信サービス「MAGASTORE」に異変が起きている。電通 雑誌局の文分邦彦氏が、同社の電子書籍事業の状況や、同氏の考える「電子書籍のジレンマ」を語った。

http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1006/04/news052.html

漫画用ビューア比較表(PC版)

漫画用ビューア比較表(PC版)

比較対象は下記とおり。
Hamana、CDisplay、Leeyes、ZeeD、cooViewerなど。

続きは下記サイトで・・・
http://www.geocities.jp/comicview7/

GoodReaderとi文庫HDを比較してみた。

GoodReaderとi文庫HDを比較してみた。
(個人による感想)

続きは下記URLで・・・
http://d.hatena.ne.jp/joynote/20100829/1283052913

iPad向け読書ビューアのインターフェイスを比較する

●続々登場するiPad向け読書ビューア
 さまざまな用途に利用できるアップルのタブレット端末「iPad」において、発売当初からとくに注目を集めている使い道といえば、電子書籍の読書端末としての用途だろう。全画面表示であればほぼB5サイズ、横にして見開き表示にすれば単行本サイズの面積が確保できるとあって、ほとんどの本で原寸大に近い表示サイズが維持できる。App StoreのBookカテゴリにアクセスすると、単体のビューアのほか、電子書籍の販売ストアと一体化したビューア、さらにはビューアと電子書籍タイトルが合体したものまで、さまざまなアプリがラインナップされている。


iPad
 しかし、これら電子書籍ビューアの操作方法は千差万別だ。例えば画面の端をタップした際に、ページが次に送られる場合もあれば、逆に1ページ戻る場合もあるなど、本のナビゲーションでもっとも重要と思われるインターフェイスですら挙動は統一されていない。紙の本とは異なる電子書籍ならではのメリットを云々する以前に、肝心の読書に没頭しづらい場合も少なくないのが現状だ。

 そこで今回は、現在App Storeで販売されている主な読書ビューアについて、インターフェイス周りを中心に、前後編に分けて比較を行なってみたい。対象となるのは単体のビューアと、販売ストアと一体化したビューアの2種類で、日本語表示が可能なことを条件に代表的なものをリストアップした。書籍とビューアが一体化したアプリについては数が多いこともあって今回は対象外とした。

 なお、各ビューアで動作する電子書籍タイトルすべてについて挙動を試すのは物理的に不可能であるため、別のタイトルでは挙動が異なる可能性があることを、予めご容赦いただきたい。今回のレビューで試用した具体的な電子書籍タイトルについては、各ビューアおよびアプリの説明中に記した。

●iPad向け読書ビューアに求められる機能を整理する
 比較を行なうにあたり、iPad向けの読書ビューアに求められる機能を、3つに分けて考えることにする。具体的には以下の(A)(B)(C)の3つである。

(A)読書インターフェイス(利用頻度高)
(B)読書補助インターフェイス(利用頻度中)
(C)その他読書に必要となるインターフェイス(利用頻度低)

 まず(A)についてだが、「ページをめくる」という、純粋に読書のための行為を指す。物理的な操作ボタンのないiPadにおいては、画面の端をタップ、もしくはスワイプすることによってページがめくられるわけだが、たったこれだけの操作でありながらビューアごとに挙動が異なるのは、冒頭に述べた通りである。

 ページめくりが左右どちらの手でも行なえることも重要だ。iPadはハードウェア自体にそこそこの重量があり、片手であれ両手であれ長時間ホールドし続けるのは厳しい。それが故、疲れたら反対の手に持ち替えて操作を続ける場合も少なくないと考えられる。従って、めくる/戻るいずれの操作も、左右両方の手で行なえることが望ましい。余談だが、ハードウェアが289gと軽量なKindle2において、めくるボタンが両側にあるのに対し、利用頻度の低い戻るボタンが左側にしかついていないことは、こうした事情と併せて考えると興味深い。

 もう1つ「現在のページ位置を確認できる」ことも、基本的な要件として(A)に加えたい。紙の本を読む際は、本の厚みに対して半分以上を読んだとか、いまが150ページだから残りは約50ページといった具合に、残りのページ数を意識しながら読みすすめる場合が多いからだ。読書中に無意識に行なっているという意味でも、後述の(B)とはやや性質が異なるため、(A)の要件に加えるのが望ましいと考えられる。

 (B)については「しおりを挟む」、「任意のページに直接移動する」など、読書の合間に行なう行為を指す。ページをめくって本を読み進めるという純粋な読書行為とは違うが、本を開いた状態のまま実行する行為、と定義すればよいだろう。電子書籍ならではの「ページの明るさや輝度を変更する」、「文字サイズを変更する」、「メモを書き込む」、「単語を検索する」といった機能もこれに含めたい。

 これらの機能で意識しておかなくてはならないのは、常に表示されていると、かえって読書体験が阻害されかねないこと。せっかくの豊富な補助機能が、読書に集中できない要因になっては本末転倒である。よって、通常は表示オフ、思い立ったらシンプルな操作で呼び出せることが必須条件となる。

 (C)についてだが、具体的には「読んでいる本を閉じて別の本に交換する」という行為を指す。紙の本であれば書庫に足を運んで手持ちの本を書庫に戻し、新たな本を取り出すというアクションだ。前述の(B)と異なるのは、本を完全に閉じた状態で行なう点にある。

 このほか、「縦書き横書きを切り替える」「ルビを表示する」といった日本語特有の機能、さらに「音声で読み上げる」、「外部辞書と連携して語句の検索を行なう」といった付加機能も考えられるが、話が複雑になるので今回は言及しない。複数デバイスで共有する際の台数制限や課金体系といった点も含めて、機会があればまた改めて取り上げたい。

続きは下記サイトで・・・

◆iPad向け読書ビューアのインターフェイスを比較する(前編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/20100729_383964.html

◆iPad向け読書ビューアのインターフェイスを比較する(後編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/20100730_384198.html