2010年11月17日水曜日

ソーシャルリーディングについて

まったく新しいサービスが登場したり新しいソリューションを生み出せる可能性

「ルポ 電子書籍大国アメリカ(大原ケイ著)(アスキー新書)」を読んだが、アメリカにおける電子書籍文化について興味深いことばかりだった。そもそもの出版文化の違いや、エージェントの存在、価格と制度の問題、読書習慣の違い…
そういった事実の羅列も興味深いのだが、その中で著者の指摘として昨今のiPadの過熱ぶりが、日本人特有の「熱しやすく冷めやすい」ものに終わってしまわないかの危惧があった。
新しいデバイスにすぐに飛びついたはいいが、飽きやすいのが日本人であり、そのせいで半年後数年後には「そんなものもあったねえ」というように、押入れの奥に仕舞われはしないかということである。それ自体はよくある話だが、そもそもそれで新しい読書習慣のきっかけが失われるのが非常に痛いという話なのである。

よくビジネスモデルの話やコンテンツの話になりがちの電子書籍ブームだが、ケータイコミック市場を思えば、それまでと全く違う文化や市場が生まれる可能性がある。だから、単に課金や権利処理について議論するのは仕組みの議論であってサービスの追求ではない。放っておいても書店に来て本を買う人に課金するのでは何も変わらない。これまで読書はそもそも習慣づいてなかった人が、たまたまiPadで読むことになったという接触を重要視しないといけない。
ということに、気づくかどうかで可能性が変わってくる。

賛否両論あるだろうが、せっかくのデバイスなのだからネットワークで繋がるコミュニティ性や、インタラクティブな仕掛け、リアルタイムな情報出力など、色々と勝負できるところがありそうなものである。

Qlippyというサービスがある。読書におけるコミュニティで、クリップしたりシェアしたりするものだ。iPad版でリリース。Web版もあり、当初から英語圏を意識していてユーザの半数が国外からだという。
はたまた、角川グループとニコニコ動画の提携といった話題もある。こちらもニコニコ動画における「テレビをみんなでわいわい見る」コミュニティ性を読書にもちこんだものである。
つくづく「ソーシャルリーディング」になりそうな2010年~2011年ではないだろうか。

もちろん先に賛否両論と書いたとおり、まっさらな本で購入したい読み始めたいという人もいる。しかしリアルタイム性や位置情報なども組み合わせていくと、まったく新しいサービスが登場したり新しいソリューションを生み出せる可能性があるということに気づくだろう。


続きは、
http://www.jagat.jp/content/view/2484/63/

2010年11月14日日曜日

大沢在昌氏の新作は電子書籍、ケータイ漫画、テレビドラマ同時展開 - ITmedia

「新宿鮫」などハードボイルド小説で知られる作家の大沢在昌さんが、新作小説「カルテット」(角川書店)を12月、電子書籍で先行販売する。来年1月にはテレビドラマ化するほか、携帯電話サイトでコミック版も展開。「多くの人に受け入れてもらい、参加できる仕組みにしたい」と大沢さんは話す。

 カルテットは、10代の少年少女3人を中心にした全4巻の小説。紙の書籍に先行し、角川グループが12月にスタートする電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER」で12月下旬に1、2巻を発売する。ケータイサイト「E★エブリスタ」でケータイ漫画も展開、漫画コンテストも同サイトで行う。テレビドラマは福田沙紀さんと松下優也さん主演。毎日テレビ系列で放送する。

 作品は、テレビドラマ化を前提に5年かけて執筆。大沢さんは「電子書籍はまだ、海のものとも山のものとも分からない」ため、デジタル関連の企画は角川グループなどに任せているが、作家として「電子書籍に前向きに取り組みたい」という。

「夢のような変化は、簡単には起きない」が……

 「電子書籍は今年ぐらいから一気にかまびすしい感じになっているが、夢のような変化は、簡単には起きない」と、大沢さんは電子書籍を冷静に見る。

 iPadやKindleなど電子書籍の閲覧に向いた端末はまだ普及が進んでおらず、「日本人全員、1億人以上が“デバイス”(紙に書かれた日本語を読む能力)を持っている紙の本と比べると、とてつもない産業にはならない」ためだ。

 「かといって、電子書籍を忌避(きひ)してはいけない」とも。同じ作品でも、紙の本より電子書籍で出したほうがメディアの注目が集まり、「話題としての起爆力がある」ため。紙の本は手に取らなかった人が、電子書籍やケータイ漫画を通じて作品を知ってくれる可能性もある。

 「電子書籍も紙の本も利益を食い合うわけではない。1人でも多くの人が楽しみ、盛り上がるためには、相互で力をぶけあう形で展開しないと。紙、電子、ドラマ、コミックなど、とにかくふくらませていって、みんなが興味を持ち、参加できるようにしていきたい」と大沢さんは意気込んでいる。

iPadについて知っておきたい、いくつかのこと

全文は下記サイトで・・・
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/mobile/20100413_360754.html

●電子書籍リーダーとしての実力
 “電子ブック”や“電子書籍”というとき、多くの人は漠然とあらゆる本の形式を想像しているように思う。しかし、以前にもこの連載で書いたことがあるが、新聞・雑誌・書籍はそれぞれ性格が異なる媒体だ。紙に印刷したメディアであることは同じだが、それ以外の共通点は意外に多くない。

 さらにフォーマットについても誤解があるように思う。iPad向けに無償提供されるアップルのiBookはePubという形式を用いて、iBook Storeから書籍を購入、管理する機能を持つ。この夏に利用が可能になるiPhone版のiBookと組み合わせると、自宅のiPadで読んでいる本の続きをiPhoneで読んだりといったことが簡単に行なえるようになる。

 しかしiPadがePubに対応した電子ブックリーダーと言うのは間違いで、実際にはさまざまな形式の電子的な本を読むアプリケーションが提供されている。なぜなら(将来はわからないが)現在のePubは特に文学系の書籍や一般的なビジネス書を表現するには十分な使い勝手だが、技術書など少々複雑なレイアウトの本を表現するのが難しいという事情がある。これはオーサリングツールの工夫で解決するだろうが、アニメーションの表現や新聞の紙面のように、その日一日のニュースの傾向を俯瞰するような見方をしたいメディアで利用するのは不向きなのだ。

 このためNew York TimesやWall Street Journal、USA Todayなどの新聞社は、独自のアプリケーションを開発して見せ方を工夫している。特にNew York Timesのアプリケーションは秀逸だ。紙面から飛び出してくる動きのある広告などが評判だが、地味ながらもっとも注目されるのが、新聞社で言う“整理部”の仕事がちゃんと反映できるよう作られていることだ。


New York Timesを読んでいるところ こちらはWall Street Journal US Todayのトップ
 つまりニュース全体を俯瞰し、世の中全体の流れを紙面構成の中から読者に伝えるような工夫がされている。個々の記事を読む際には、記事をタップして全文を表示する必要があるが、なかなかユニークな工夫だ。文字の複雑な日本の紙面には、もう一工夫が必要かもしれないが、これは単純なWebニュースでは得られない体験と言えるだろう。

 一方、アメコミ最大手のMarvel Comicsはコミックを見るためのビューアーを開発して配布。専用アプリの中からコミックを購入することもできる。全体を俯瞰しつつ、コマを順に追っていく読み方もできる。同一ページ内のコマを送る際には、ページ内を目線が動くようにアニメーションするなど、実際にコミックを読んでいる雰囲気をきちんと出していた。

 このほかZinioのZinio Readerは、雑誌を見るためのプラットフォーム。雑誌をペラペラとめくりながら、気になったページを読もうとすると、写真や記事を掘り下げて読むことができる。まだ実際に雑誌をパラパラとめくりながら見る体験と同じというところまでは行っていないが、なかなか面白いトライだ。

 このように媒体のタイプ、さらには同じ雑誌でも情報誌なのか解説中心の雑誌なのかによっても、最適な見せ方は変わって来るはずだ。それぞれは異なるフォーマットでも、各プラットフォームに読むためのプログラムが用意されていればいい。たとえばKindleだってiPad用アプリケーションがある。

 iPadに話を戻してみると、iPadのディスプレイが広視野角なIPSタイプで画素密度も十分に高い点やタッチパネルの軽快な操作性なども良いところだが、上記のような“見せ方”を工夫した閲覧のためのアプリケーションを、比較的構築しやすいように開発環境が整っていることこそが、iPadのこの分野での優位性のようにも思える。



さまざまな電子書籍やコミックを読むためのアプリケーションが用意されている
●“本を読む”ための道具としては辛い面も
 これも以前から主張していることだが、上記のように“見せ方の工夫”がしやすいiPadは雑誌的、新聞的な読み方をサポートしてくれるが、その一方で純粋に書籍を読むための道具としては、少々使いづらいとも感じる。

 筆者は電子書籍リーダーとして、ふだんSony Reader Daily Editionを使っている。特に新書に関しては、そのままスキャンして余分な余白を裁ち落としたPDFを表示させると、ちょうどいい具合のサイズで読めるからだ。それ以外の電子的なデータが存在するものに関しては、ちょうどいいレイアウトになるPDFを“自炊”している。

 と、それは少々マニアックな話だが、同じようにiPadで本を読みたいかというと、そうは思わない。やはり実際に読んでみても、バックライトを使った液晶パネルでは、長時間、文字を読み続けるのが辛いと感じるからである。

 こればかりは、電子ペーパーと液晶パネルという、ハードウェアの基本的な性格の違いだから、致し方ないところ。加えてコンピュータデバイスとしては軽量な部類のiPadも、本のように読もうと思うとさすがに重い。下端を指で挟んで読んでいると、すぐに指が疲れてしまう。

 さらにバッテリの問題もある。電子ペーパーを使ったリーダーは、どれも1週間ぐらいは鞄の中に入れっぱなしで充電せずに使うことができるが、iPadはそうはいかない。使い方のスタイル次第だろうが、やはり書籍を持ち歩くイメージじゃないなぁというのが、個人的な“感想”である。さて、皆さんはどう感じるだろうか?

 もっとも、iPadが電子書籍のビジネスが本格化するきっかけにはなるかもしれない。出版社は保守的だと外からは見えるだろうが、変わらなければならない意識はどの出版社も持っている。なにかトリガーとなるものがあれば、一気に状況は変化するものだ。

 最終的にはiPadでも、Kindleでも、Sony Readerでも、一度購入した書籍が携帯電話なども含め、そのとき、その場に適したデバイスで読める環境ができれば、デバイスが何かなどは“どっちでもいい”ことだ。

 そしてそのために必要な仕組み作りは、背後で少しずつ進んでいる。それに関してはまた別の機会に記事にしたい。

電子書籍元年に迎える年末

関連サイト:http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/mobile/20101111_405974.html

今年(2010年)のこの連載は電子書籍端末に関する話題で始まったが、年末にかけて電子書籍がさらに大きな話題を呼ぶことになる。電子書籍を読むためのハードウェアが複数登場すると見込まれている上、大手出版社を含めて電子書籍販売の枠組みを決めてきているからだ。

 たとえばハードウェアの面では、シャープがガラパゴスで電子書籍端末市場に参入したことに加え、海外ではアマゾンのKindleと並んで多くのユーザーを獲得しているソニーも、国内でのビジネスを開始することを明言している。Kindleに関しても、他社の動向を踏まえた上で日本市場に参入する準備は進んできている。

 いくつかの動きが同時並行的に進んでいるが、噂先行でインターネットに情報が流れていると感じている。取材を行なっていると、すぐに報道できる事、将来にならなければ書けない事などが入り交じるものだが、単なる噂が事実として捉えられているケースも見かけられる。そこで、筆者が取材した範囲内の情報をテーマごとに分類し、年末に向けた電子書籍関係の動向をまとめてた上で個人的な意見も書き添えておきたい。

 今回は、主にフォーマットについての話題をまとめてみた。

●電子メディアにフォーマット戦争はない
 書き進める前にいくつか全体を俯瞰するための基礎的な話をしておきたい。

 まず一気に書籍流通が電子化される可能性があると考えている方もいるようだが、国土が広く物流の問題が大きい米国でさえ、2012年に10%程度という予測が2010年前半は多かった。日本の場合はまだ本格的にビジネスも始まっていない。今の段階で、日本での電子化比率を予測することにあまり意味はないが、多くても1割程度と考えるのが妥当だろう。

 出版事業の基礎はあくまで紙の本にあるということだ。電子出版の市場は当面の間小さすぎるため、製作コストや宣伝コストを考えると電子版のみで大きな成果を出すことは難しいと考えられる(もちろん中には既存の大作家が書き下ろしなんてものも出てくるかもしれないが、あったとしてもそれはごく一部の話だ)。

 将来のために電子フォーマットに投資できる出版社もないわけではないが、多くの出版社(ほぼ全社と言っていいかもしれない)はソフトウェアや電子技術の標準規格策定のノウハウを持ってはいないし、そこに投資するだけの大きな市場も、すぐ目の前に現れているわけではない、ということだ。

 電子書籍に関連して、既得権益を守るためにコンテンツを持つ出版社と、コンテンツを囲い込みたいハードウェアメーカーが結びつき、クローズドな世界で独自技術で固めたエコシステムを作ろうとしている、といったストーリーの批判記事を見かけることがあるが、そんな余裕はないはずだ。そもそも、純粋な電子流通のメディアの場合、エンドユーザーに影響する出力フォーマット戦争へと発展することは考えにくい。

 過去、電機業界においてフォーマット戦争と言われる事態が何度か起こってしまった。VHSとβのビデオレコーダ戦争の時は、規格を統一しようにも物理的なテープのサイズが異なっていたので乗り入れはできなかった。その後、DVDの前身であるSD規格とMMCDは、どちらも12cm、1.2mm厚のポリカーボネートディスクで外形は同じだったが、物理的な記録構造が異なった。これはBlu-ray DiscとHD DVDの間でも同じである。

 これらが技術論争に留まらずフォーマット戦争に発展し、(DVDは消費者に影響を与えることはなかったが)結果として消費者に少なからぬ影響を与えることになったのは、メディアフォーマットに物理的な制約があるためだ。しかし、電子流通しか想定してないフォーマットには、当然ながら物理的制約はない。

 電子書籍のフォーマットは映像や音声の圧縮手順やコンテンツオーサリングのためのスクリプト言語、あるいはJavaなどに比べると遙かにシンプルで、世界で流通している電子書籍フォーマットの多くは、組版ルールを示す印(タグ)を埋め込んだテキストファイルだ。技術書用などではレイアウトが崩れないようタグの付け方を工夫している場合もあるが、それらは書式策定上のノウハウであって、特定フォーマットに対応したリーダを作る事は難しくない。

 つまり、複数のフォーマットが流通しているのであれば、電子書籍端末は主要なフォーマットすべてに対応すればいい。無論、数十種類ものフォーマットが混在すれば問題だが、実際にはそんなことにはなっていない。実際、アマゾンのKindleが扱っているAZWという形式も、実はその中身は用途ごとにさまざまな形式で記述されている。

 これがソフトウェアでは低消費電力かつ高速に処理できないような複雑なフォーマットならば、対応するLSIを開発しなければならないため、フォーマットが増えるとどうしようもないということになるだろうが、電子書籍はページを表示する時にしかデータを処理する必要がない。組版ルールとしてどんな機能、選択肢が必要か? といった部分で議論はあるかもしれないが、フォーマット戦争は起きようがない。

●出版社にとってフォーマットライセンス料やオープン性より重要な事
 やっと日本語組版ルールがスタイルシート記述や追加タグとして盛り込まれるようになり、日本語ePubが実現しそうだというニュースが数カ月前にあった。大変に喜ばしいことだが、だからといってこの年末にすぐに対応端末が出てくるわけではない。タグ付けルールが決まれば開発はスムーズに進むだろうが、書籍データ(業界標準のDTPシステムはアドビのInDesignなので、少なくともInDesignのデータから、日本語組版情報も含めてePubにエクスポートされ、各種端末で崩れずに表示されるというワークフローが確立されなければならない。


ソニー製5インチサイズの英語ePub端末に、日本語フォントを埋め込んだePubファイル(筆者が手元にあるテキストをテストで出力したもの)を表示させたところ
 実際、欧文書式であればePubの書き出し機能はそこそこ使える印象だ。フォントを埋め込むこともできるので、横書き、ルビ・傍点など日本語組版機能なしであれば、日本語ePubを英語ePub端末に表示させることだってできる。ただ、新しい組版ルールが組み込まれ、どのように書き出され、表示されるかといったノウハウがたまるまでには時間がかかる。書き出しプラグインの改良も必要だろうし、ほぼワンタッチで(すなわち最小限の校正コストで)書き出せるようになるには時間がかかる。

 それでも仕様そのもののオープン性は重要という声はあるだろうが、日本語でのePubが使い物になるレベルになったなら、その時点でビューアが対応すればいい。それまでの間は、すでに実績のある書式を流用した方が、既刊書籍を速やかに電子化するには有利だ。

 たとえばシャープが提供し始めたXMDF形式は、DTPデータからワンタッチで書き出す事ができる。すでに携帯電話向けに豊富な経験があり、携帯電話、PDA、PC、すなわち画面サイズや解像度の異なる複数の端末で、問題なく書籍として流通できるデータを作る事が可能だ。

 小学館が年内に200冊の電子書籍を用意すると話しているが、これらはXMDF書き出しのノウハウを持つ子会社を通してXMDFデータとしてリリースされる。拙著の単行本も、この中の一冊になると聞いており、シャープ製以外の電子書籍端末でも読むことが可能になると聞いている。既刊の書籍はすでに校了したデータが存在し、それを別形式で書き出すと再校正しなければならないが、経験を積んだフォーマットならば校正作業は最小限で済む。

 一方、講談社はボイジャーが開発した.book形式でのリリースが多い。再校正のコストや時間をかけられない(冒頭でも述べたように、電子書籍市場はまだまだ小さい)ため、経験値が高く既存データもある形式でのリリースと伺った。講談社は電子版2万冊を用意との報道が出ているが、桁違いにラインナップ数が多いのは、再校正が必要となる要素を徹底して避けているためである。

 .bookは角川グループも採用する予定で、やはり先行して取り組んできた実績やノウハウが生きている事がわかる。角川は最終的に中間フォーマットでリリースし、端末に合わせて個々の形式でダウンロードさせることを考えているようだが、スタート地点は既存フォーマットとなった。

 実際に電子書籍市場を立ち上げて行くには、既刊書籍をできる限り低リスクで電子化できる環境を作らなければならない。無論、使い物にならないフォーマットにコストをかけるのは愚かなことだが、XMDFも.bookも、それぞれにパートナーの出版社、あるいはエンドユーザーに揉まれて進化・熟成されてきたノウハウの固まりだ。既存のデータもある。

 ライセンス料やフォーマットのオープン性にばかり目が行きがちだが、そもそも普及が困難なほど高いライセンス料を科した規格は消え去るだけだ。やり玉に挙がりがちなXMDFも同じで普及の段階に合わせて適切な料率になるならば問題はないだろう。

 少なくとも現状、日本語ePubより良い電子出版環境を提供できるものになっているのは間違いないのだから。繰り返しになるが、日本語ePubの方が良いという状況になったなら、ビューアは必ず対応する。そちらの方が良ければ、新刊のフォーマットは(自然に)日本語ePubへと移行していくはずだ。
●エンドユーザーにとってフォーマットライセンス料やオープン性より重要な事
 なお、ご存じの方も多いと思うが、電子書籍のフォーマットは将来的に、さまざまな組版指定やレイアウト情報などを記述できる中間フォーマットが標準規格として策定され、そこから各機器がサポートする電子書籍フォーマット(ePub、XMDF、.book、あるいは特定の技術書のレイアウトが得意なフォーマットなど)へと変換するワークフローだ。

 各種フォーマットのスーパーセットとして中間フォーマットが確定するまでには若干の時間がかかるだろうし、中間フォーマットへの出力ノウハウ(さらにその先のリリースフォーマット変換時のノウハウも)がたまり、ワークフローとして確立するまでには時間がかかるだろうが、電子書籍フォーマットに関する議論は、いずれにしても遠くないうちに収束する。もともと、エンドユーザーにとって重要な事は、フォーマットの種類ではない。手元にある装置に対して、どのような運用形態でコンテンツが提供されるかの方が、ずっと重要な事だ。

 たとえば、ある電子書籍ポータルで購入した電子書籍は、どの端末で読む事ができるのか。読み終わった本を友人に推薦したいといった時、期間限定で別のアカウントIDに対して“貸す”ことができるのか。紙の本の購入者が割引料金(あるいは無料)で電子版を購入する仕組みはあるのか。電子書籍端末を別メーカーのものに購入し直した際に、それまでに購入した電子書籍は移行できるのか、できないのか。移行できるなら、その枠組みはどうなるのか。

 たとえば私は先日、上梓した本で、本の一部にユニークコードを印刷しておき、ユニークコードをユーザーに入れてもらうと、コンテンツ全文のPDFがダウンロードできるというサービスを提供した。この時点ではPDFしか日本語で確実に本のデータを提供する方法がなかったため、DRMなしでPDF全文提供のサービス実現を出版社にお願いしたのだが、今後はそれを電子書籍フォーマットでできればいいのでは、と思っている。著者の裁量でそれが実現できるなら、と思っている執筆者もいることだろう。

 エンドユーザーにとってみれば、本への投資が守られることが、これは書籍レイアウトや内容を記述するフォーマットにも増して気になるところではないだろうか。

 筆者に集まってきている情報を総合すると、各種端末はマルチフォーマットに対応し、少なくともPC上のツールでは複数の電子書籍販売ポータルに対応する方向で調整しているようだが、読者個人に対するライセンス(電子書籍を読む権利)を異なるサービス間で継承するための枠組みについては、まだ調整が必要のようだ。

 とはいえ、実際にビジネスが始まりさえすれば、読者にとって悪い方向に行く事はないと思う。複数のシステムが存在することで、競争が発生する見込みが高いからだ。販売価格での競争はあまり見込めないが、運用形態の柔軟性に関しては競争が起きるだろう。

 いずれにせよ12月までには、次に向けてのアクションがいくつかある。

 なお、フォーマットのライセンス料やオープン性が電子書籍の価格に影響するのでは? との論も見かけた。しかし、実際に販売される電子書籍の価格が変わるわけではない(もちろん、自主出版は別)。年内には大手、来年春ぐらいまでには中堅を含めた出版社が電子書籍市場にコンテンツを提供していくが、リリース用フォーマットによって価格が違わない事はすぐに明らかになるだろう。

 電子書籍のコスト構造のうち、もっとも大きな割合を占めているのは配信・課金システムのコストで、おおよそ4割が見込まれている(ずいぶん配信コストが高いと筆者も思うが、この数字はリアルなものだ)。電子書籍の価格は紙の場合の7~8割というが、多くは7割程度になると見られる。

 ちなみに著者印税は講談社の場合で販売価格の15%、小学館は出版社売上げの25%との事だ。配信は外注されているため、小学館の場合も25×0.6=15(%)と両者は同じ印税率だ。また、前述したように紙の本の7割の価格が付けられる予定であり、この15%にかけ算すると、紙の本で言うところの10.5%が著者印税になる計算。

 すなわち著者の手元に入る金額は1冊当たり、紙でも電子でもほとんど変わらない事になる(ただし電子配信は売上げ実績に対してしか支払われないため、初版分に対してアドバンスで印税が支払われる紙の本とは厳密には異なる)。

電子出版の総合情報誌『eBookジャーナル』11月22日に創刊-特集内容等を公開

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/10/28/072/index.html

電子書籍情報サイト『ダ・ヴィンチ電子部』オープン - 毎日レビュー更新

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/11/05/027/index.html

最悪のシナリオでも電子書籍は5年後に30億ドル市場に - Forrester

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/11/10/056/index.html